2018/04/08

創薬から考える、武田薬品工業がシャイアー(Shire)社の買収を検討する意義(時事ニュース解説)


2018年4月5日に武田薬品工業のCEOがアナリスト向けにシャイアー社の買収を検討していると表明したことがニュースになっています。事業規模や経済については、アナリストや経済の専門家の方が詳しく解説にお任せして、薬の開発の視点からこのニュースを見てみます。この武田薬品工業の動きは、抗体などの高分子薬(バイオ医薬品)の開発力を手に入れるためなされているのではないかと思います。買収自体はまだ正式に発表されたものではないようなので、今後の動向にも注視して行きます。


武田薬品工業は、一般の市販薬(OTC)ではアリナミンが有名ですが、医師から処方される医療用医薬品の分野でも国内屈指の製薬企業です。新薬も開発できるぐらいの体力があり、販売力は日本の病院、クリニック全域に及ぶと考えられます。販売している医療用医薬品を見てみるとよく使用される薬が多くあるので全方位的になっているのだと思います。


それに対して、シャイアー社は、創業が1986年頃と比較的新しい製薬企業ですが、グローバルな製薬会社の1つになります。新生の会社として、これまでの化合物系の薬ではなく抗体医薬などのバイオ医薬品を専門にした会社であると言えます。製薬業界は吸収合併を繰り返していて、海外も含めて再編も頻繁に行われており、シャイアー社も製薬協に加盟していたバクスアルタ株式会社を2018年2月に買収するなど盛んな企業活動があります。ここから見えてくるのは、バイオ医薬品を製品化することができ、更に、生産技術、特許、ノウハウなども含めた形で吸収合併などの手段も取ることとができる企業なのではないかと思います。


旧来の化合物系の作成といわゆるバイオ医薬品では医薬品の製造過程が根本的に異なります。化合物系の医薬品を作るのには、薬品と薬品を混ぜたり熱したりする化学コンビナートのようなイメージの設備が必要です。それに対して、バイオ医薬品では、酒蔵のような培養槽が必要になります。この2社の関係は、医薬品会社の合併と一括りに考えがちですが、薬の開発面から考えると化学コンビナートと酒蔵が一緒になるようなものです。
ただ、武田薬品が、こういったバイオ系の仕組みを持っていないかというと、実はワクチンの製造工程はバイオ医薬品の作成と似ています。バイオ医薬品への進出をかけた買収とすると武田薬品工業の構造全体に関わってくる話なのかもしれません。


いずれにせよ、2018年4月7日付の「Shire社の株価変動に関する当社声明について」(武田薬品工業)というプレスリリースによるとシャイアー社について「投資基準に合致する必要」があると書かれており、現時点では、まだ買収については決定されていません。もし、同社に動きがあれば、4月25日午後5時(ロンドン時間)までに何らかの発表があるということです。

武田薬品はシャイアー社に買収の申出を行いました。(2018年5月8日追記)
以下、引用です。
本買収のハイライト
  • 消化器系疾患及びニューロサイエンスにおいて相互に補完するとともに、希少疾患と血漿分画製剤においてリーディングカンパニーとしてのポジションを獲得することで、オンコロジーやワクチンにおける強みを補完
  • 日本に本社を置く、企業価値の向上を追求する研究開発型グローバルバイオ医薬品企業のリーディングカンパニーが誕生し、今後の発展を促進する魅力的な地理的拠点と規模を確立
  • 強固かつモダリティの多様な、高度に補完的なパイプラインを創出し、画期的なイノベーションにフォーカスした研究開発体制を強化
  • 当社のキャッシュフロープロファイルが向上し、大幅な年間コストシナジーの実現や充実した株主還元実施を確信
  • 当社の変革が、シャイアー社の統合を成功に導き、統合後の会社の価値を最大化 

武田薬品はシャイアー社買収の申出に対する米国連邦取引委員会からのクリアランス取得しました。(2018年7月12日追記)


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(ニュースソース)
武田薬CEO、シャイアー全体の買収検討-アナリスト会合で表明(Bloomberg)
2018年4月6日 9:00 JST 更新日時 2018年4月6日 15:50 JST

武田薬品、最大の海外買収も 欧州製薬の全株取得の場合 - SankeiBiz(サンケイビズ)
2018.4.6 08:59


Shire社→シャイアー社へ社名を日本語にしました。(2018年4月26日)
関連記事を追加しました。(2018年5月8日)