2018/05/06

遺伝子資源の開拓とバイオ医薬品会社(書評・限界費用ゼロ社会)

 限界費用ゼロ社会

はじめに

テレビ東京のワールド・ビジネス・サテライト(WBS)でドイツの自然エネルギー転換に関わり、中国の次世代インフラのアドバイザーも勤めている人物と紹介されたのが、ジェリミー・リフキン(Jeremy Rifkin)氏です。 これがリフキン氏の名前を知った初めでした。 今回、リフキン氏の「限界費用ゼロ社会」を読んでみて少なからず医療に関わりのあることにも言及されておりましたので、書評としてご紹介します。

情報・エネルギー・物流のインターネット

生まれた時からインターネットに囲まれた生活がある人でも既に30代近くになります。本書ではインターネットを分散型のネットワークとして捉え、市場に与える影響を情報(コミュニケーション)/エネルギー/物流(IoT)に分けて考察しています。18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命と同じようにインターネット革命でも徐々に地域社会・協同組合が市場の中心になる「協働型コモンズ」という世界に変わっていくだろうというのが著者の見立てです。

 協働型コモンズの成功として、海外で電力網のインフラ構築があります。民間企業では採算に合わないと判断される場合でも、政府が事業プロセスを後押し費用の保証をすることで、協同組合により地域インフラが構築できます。この地域が主体となった投資により、その地域の産業が発展し、最終的には初期投資も回収をした例を挙げています。大型の農機具を共同購入する農協のような組織イメージが私には近く感じられました。

バイオを通じて発見された協働型コモンズ

書籍にはリフキン氏が最先端技術の囲い込みとしてコモンズを知ったのは1979年に原油を分解する微生物の遺伝子特許が最初とあります。遺伝子情報が4種類の核酸配列の並びの発見なのか、発明として権利を付与されるものなのか、司法として判断されることになります。バイオテクノロジー企業の第1号としてジェネティック社の狂騒振り(少し興味がありましたので、調べたところリンク先に詳しく状況が書かれておりました。)が述べられています。この遺伝子情報という新しい資源を巡る裁判や社会的状況から、筆者は資本主義と対峙しコモンズへの洞察を深めていきます。



新しい医療についての考察

医療分野で情報が自由にアクセスできる状態を想定していくつかの状況を想定しています。
1つは参加型の保険医療モデルです。著書の中でランダム化比較試験の重要性は説きながらも、迅速かつ低コストでWikipediaを進めたような仕組みを紹介していました。
もう1つは患者同士のコミュニケーションのあり方を観察した例があります。インターネットの中では心理的な支えよりも疾患や治療方法の選択肢、体調の管理、副作用に関する知識を学び合い病気にうまく対処する術を求めており、誤認情報かどうかも患者同士のコミュニティーで事実確認をする傾向があると分析しています。
また、現状補完的であると断りつつ、twitterやgoogleを使用してインフルエンザの拡散状況を予測することもあるとしています。

終わりに

本書は経済学的な側面から歴史的な事例が多く示されています。そのため、具体的なモデルや明確な示唆を求めているとしたら読むには適さないかもしれません。ただ、コミュニケーション、エネルギー、IoTの新たな視点から医療を考える契機となりました。