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2019/07/15

医薬業界の今後を考える2019年(コラム)

医薬品市場の現状


医薬品市場は医師による処方箋が必要な医療用医薬品と、薬局で買える一般用(OTC)医薬品に分類される。前者の市場規模は10兆円であり、後者が8千億円と診療報酬の関わる医療用医薬品の市場規模が圧倒的に大きい。

薬価が極端に高い医療用医薬品が保険で賄われることで、医療費が圧迫されつつある。

新薬の薬価が高くなるのも理由は、医薬品や生産工程の高度化により臨床試験で承認されるための新薬の開発費や投資の回収のために資金が年々高くなっているからだ。この臨床試験では、薬の効きが個々の患者間の誤差に紛れない程度の患者数を集める必要があり、試験を実施するために相応の費用がかかる。

また、一般的な臨床試験にかかる医薬品のほかに、希少疾患用の医薬品がある。医薬品マーケティングの観点からは小さな市場で成功を収めて徐々に疾患の対象を広げていく適応追加という方策が定石である。希少疾患ではそもそも患者数が集められないので、通常の臨床試験が行えない。ただし、薬としてのニーズがあり、開発を進めないといけないという背景からがあるので極少数で臨床試験が行われる。


医薬品市場の展望


逆の発想としては、近年、がん分野で症状ではなく特定の遺伝子の変異に着目した遺伝子検査が保険収載されたことが記憶に新しい。医薬品と臨床試験に参加する被験者の対応を多対多にすることで、臨床試験の効率化が行われている。開発や臨床試験の規模が大きくなると、新薬の承認を得られるのは巨大企業のみとなるだろう。

このような背景のもと、新薬の承認薬価が上振れする状況の一方で、皆保険制度的に破綻を来さないように既存薬の薬価を下げることが行われている。保険償還の仕組みにより、高額な医療費であっても患者負担は安価に提供されている。本来、保険制度は国民の医療へのアクセスが目的である。しかし、新薬とそれ以外の既存薬と概念的に分けられ何らかの政策意図が働くとすると、保険制度が再定義されていくのではないかと私は考えている。

つまり、既存薬の薬価を下げていく一方で、希少疾患やがん、人の命に直結する医療に保険の財源を回していくと、新薬の開発のための臨床試験に関わる医療に保険の財源が使われる。臨床試験と皆保険制度が結びついた世界が1つ。 そしてももう1つが、薬価の下げ切った既存薬である。現状、病院で医療用医薬品が処方する方が、OTC薬を購入するよりも安い。逆ザヤになっている。この逆ざやを解消すれば、医療用医薬品として保険償還される費用をOTC市場に移行させることができる。そうすることで保険医療費の財源をある程度確保できるようになるのではないか。健康保険薬局やスイッチOTCの傾向などもみていると、近いうちのいつかどこかでこの逆ザヤにメスを入れる瞬間が出てくると予想される。


これからの医薬品市場(私見・まとめ)


医療業界はグローバルで巨大な研究開発型の製薬企業とそれ以外の中堅メーカーに分かれるだろう。中堅以下の製薬メーカーのイメージは、上流からの製薬会社がエンドユーザーにかなり近い距離感で地域包括ケアへ取り組んだり、他業種と協業するパターンと下流からの調剤薬局チェーンがジェネリック薬の製造メーカーとなるパターンなどがある。ドラッグストアがプライベートブランドをOEMで作ることもあるだろう。地域ごとの特色があるので全国統一でというのはもしかしたら難しいかもしれないが、今とは全く違った製薬会社の業態も出てくるかもしれない。
(2019年6月)
(関連リンク)
市販薬あるのに病院処方5000億円 医療費膨張の一因 

2018/05/06

遺伝子資源の開拓とバイオ医薬品会社(書評・限界費用ゼロ社会)

 限界費用ゼロ社会

はじめに

テレビ東京のワールド・ビジネス・サテライト(WBS)でドイツの自然エネルギー転換に関わり、中国の次世代インフラのアドバイザーも勤めている人物と紹介されたのが、ジェリミー・リフキン(Jeremy Rifkin)氏です。 これがリフキン氏の名前を知った初めでした。 今回、リフキン氏の「限界費用ゼロ社会」を読んでみて少なからず医療に関わりのあることにも言及されておりましたので、書評としてご紹介します。

情報・エネルギー・物流のインターネット

生まれた時からインターネットに囲まれた生活がある人でも既に30代近くになります。本書ではインターネットを分散型のネットワークとして捉え、市場に与える影響を情報(コミュニケーション)/エネルギー/物流(IoT)に分けて考察しています。18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命と同じようにインターネット革命でも徐々に地域社会・協同組合が市場の中心になる「協働型コモンズ」という世界に変わっていくだろうというのが著者の見立てです。

 協働型コモンズの成功として、海外で電力網のインフラ構築があります。民間企業では採算に合わないと判断される場合でも、政府が事業プロセスを後押し費用の保証をすることで、協同組合により地域インフラが構築できます。この地域が主体となった投資により、その地域の産業が発展し、最終的には初期投資も回収をした例を挙げています。大型の農機具を共同購入する農協のような組織イメージが私には近く感じられました。

バイオを通じて発見された協働型コモンズ

書籍にはリフキン氏が最先端技術の囲い込みとしてコモンズを知ったのは1979年に原油を分解する微生物の遺伝子特許が最初とあります。遺伝子情報が4種類の核酸配列の並びの発見なのか、発明として権利を付与されるものなのか、司法として判断されることになります。バイオテクノロジー企業の第1号としてジェネティック社の狂騒振り(少し興味がありましたので、調べたところリンク先に詳しく状況が書かれておりました。)が述べられています。この遺伝子情報という新しい資源を巡る裁判や社会的状況から、筆者は資本主義と対峙しコモンズへの洞察を深めていきます。



新しい医療についての考察

医療分野で情報が自由にアクセスできる状態を想定していくつかの状況を想定しています。
1つは参加型の保険医療モデルです。著書の中でランダム化比較試験の重要性は説きながらも、迅速かつ低コストでWikipediaを進めたような仕組みを紹介していました。
もう1つは患者同士のコミュニケーションのあり方を観察した例があります。インターネットの中では心理的な支えよりも疾患や治療方法の選択肢、体調の管理、副作用に関する知識を学び合い病気にうまく対処する術を求めており、誤認情報かどうかも患者同士のコミュニティーで事実確認をする傾向があると分析しています。
また、現状補完的であると断りつつ、twitterやgoogleを使用してインフルエンザの拡散状況を予測することもあるとしています。

終わりに

本書は経済学的な側面から歴史的な事例が多く示されています。そのため、具体的なモデルや明確な示唆を求めているとしたら読むには適さないかもしれません。ただ、コミュニケーション、エネルギー、IoTの新たな視点から医療を考える契機となりました。


2017/09/26

OTC広告の規制が変更に(2017.9)

日経新聞に下記のような記事がありました。

薬の広告、表現柔軟に 厚労省 15年ぶり基準見直し


厚生労働省は医薬品などの広告基準を15年ぶりに見直す。特定の性別や年齢をターゲットにする表現を認め、例えば生理痛に効果がある医薬品の効能をアピールしたい場合に「女性向け」といった表現が可能になる。厚労省は今月下旬にも新基準を都道府県に通知する方針。医薬品メーカーなどの販売戦略の自由度が高まる。」(引用)ということで、新発売の期間は6ヶ月から1年になるような規制改革について載っていました。

元資料はおそらく、『規制改革推進会議 医療・介護・保育WG資料 「一般用医薬品及び指定医薬部外品の 広告基準等の見直し」について( 平成29年6月22日)』だと思います。


資料として記載のあるのは、「第16回医療・介護・保育ワーキング・グループ 議事」になります。厚生労働省提出資料に詳しく出ていました。こちらの議論が済んだということなのでしょう。

昭和55年に制定された医薬品等適正広告基準を現在の目で見直すことをしているようです。国民ニーズあるいは広告の実 態などの変化に伴い、現在にはそぐわない部分が存在していることが理由ということでした。

簡単に感想を・・・。
1. 名称の記載について、
外国の方もいるので、アルファベットの併記を可能に。
オリンピックもありますし、いいのではないでしょうか。

2. シリーズ名を緩和
鼻風邪には・・みたいなのでしょうか。
商品のブランド化が進むのかもしれません。

3. 使用感の表現
目薬などの使用感に関する表現は可能としていたが、「ことさら強調する」 のは消費者に誤解を与える。確かに、使用目的を誤らせるような過剰な表現は決していいことではないように思います。「すっとする」とかでしょうか・・・。

4. 特定の成分を含んでいない
例えば、カフ ェイン、ナトリウム、ステロイド、抗ヒスタミンといったものを含んでいないという表現 を可能とする。これは、妊婦さんとかはいいかもしれません。
普通に伝えればいいと思うのですが、売る側が他者誹謗などでグレーラインを踏まないことを祈ります。消費者への情報提供有用な情報であることは間違いないと思います。

5. 特定年齢、性別等向けの広告表現
消費者に不利益を与えるものではないので、いいかも・・・。ターゲティングのようなものを想定しているのでしょうか。

6. 販売歴の表現
単なる事実の記載のみであれば、OKということになるらしいです。家伝薬とかきちんと宣伝できるようになるといいと思います。

7. 「眠くなりにくい」といった表現
消費者にとっては有 益な情報と思います。
これも、カフェインと一緒で、販売側が、どれだけ自制心を持って取り組めるかということになると思います。


8. 「新発売」という表現の使用期間
現行では6か月を1年間にする。妥当だと思います。

9. 多数あるいは多額購入した場合に値引き
医薬品で値引き表現は、さすがにおかしいと思います。配置薬的なものもありますが、医薬品は本来必要な時に必要なだけ飲めばいいものだと思います。薬は飲み過ぎれば毒にもなることを訴えて行く必要があるように思います。健康食品とかなら分かるのですが、議論になることもおかしいように思います。

10. ビタミンについて
同じ成分なのに、違う効能が書いてある商品が出回るように思います・・・。
こちらも商品のブランド化が進むのかもしれません。現場での説明が難しくなりそうです。

(関連コンテンツ)
震災経験(3.11)から考える医薬品の安定供給

2017/09/25

貿易摩擦と医薬品規制の歴史


医薬品が病院で使用できるようになるまでには、発見された物質が臨床試験され、当局(厚生労働省)に認可される必要があります。医薬品の申請について概要を理解することは、製薬業界に転職もしくは新卒で入社を希望する人に役立つかもしれません。


ここで医薬品は、主に病院で使われる医療用医薬品のことをさします。
医薬品と一般の消費財との違いは、国、行政機関が認めたものでないと販売ができない
認可制のものであること。違反すると薬機法違反になりつかまります。


医薬品の効果や安全性(価値や限界)を知るには、臨床試験が必要になります。
医薬品が、毒や食べ物の違うのは、薬として使われるまでに、人体への安全性と効果について、きちんと検討されているからです。医薬品の見た目は、タブレットやカプセルにして多少区別がつくようになっていますが、粉か液体のような形をしています。
医薬品が価値を出すのは、体に害がなく(少なく)病気に効果があるということです。
これを証明するためのヒトに対する試験が臨床試験であり、効果や安全性が国(当局、厚生労働省、PMDA)に認められて、病院などで使用できるようになっていきます。


こういった臨床試験には一定のルールがあり、一般に医療は、規制が強いとか悪く岩盤規制などと言われています。特に、経済活動をしている人は、普段元気なために意識しないのかもしれません。いわゆる国民皆保険制度で、医療費の負担が実際に支払わないといけない費用の1割から3割であることがあります。これも医療費が身に差し迫ったこととして考える契機にならない原因かもしれません。ともすると、儲かるからとか、あたかも規制が悪いような論調で、規制を撤廃しようという話になります。ただ、医療は生きるか死ぬかの問題であることを考えると、経済の理論だけで述べるのは危険だと思います。

医薬品が病院で使われるようになるために、製薬会社が当局に申請する資料を承認時申請資料と言います。承認時申請資料は、1990年代前後までは、独自の基準や言葉の統一などされていなかったようです。

時代的な背景を振り返ると、1986年12月-1991年2月までバブル景気とそれに続くバブルの崩壊、1995年のWindows95発売、その後のインターネットの急速な普及。世の中的にはそのような状況で、政治的には、中曽根康弘首相とレーガン米大統領は、「ロン・ヤスの仲」で知られていたようです。彼らの一つの成果が、 1985年から1986年にMOSS協議で特定分野(エレクトロニクス,電気通信,医薬品・医療機器,林産物等)の日本市場に関する話し合いのようです。

医薬品規制の国際化は、1990年に ICH( International isation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use:日米 EU 医薬品 規制調和国際会議)という団体を背景に行われました。この会議体は、不必要な繰り返しの防止、新医薬品の開発,承認申請の効率化を目的として、日本、米国、 EUの医薬品行政当局と製薬産業界の代表で設立されました。具体的には、新薬承認審査のための医薬 品特性検討に必要な試験の実施方法やルール、提出書類標準化等の作業をしています。

90年代、医薬品市場の大きさを考えると日本は、7割くらいの大きさがあったようです。国際基準を作ることで規制が事実上規制が国際的なものに置き換わっていきました。
大体、2000年以降に発売された医薬品は、これらの国際的な基準を元にしています。

2000年頃からのバイオ医薬品の上市(発売)と相次ぐ日本国内の研究所の閉鎖と国際化も無関係な動きではないと思います。

ICHの発足が、医薬品の申請が国際的な基準になっていった端緒です。
また、ICHの基準を読み解くと医薬品がどのようにできていくのかがわかると思います。