2018/09/17

地域包括ケアシステムの構築における製薬会社の役割


都内初行政と製薬会社の取り組み


2018年8月23日多摩市と武田薬品工業は都内で初めて「地域包括ケアの推進」に関する協定を締結しました。
多摩市はテレビでよく話題になる多摩ニュータウンを抱え高齢化が進んでいます。都市近郊型の医療と介護の両方を必要とする高齢者の急増が想定され、保健・医療・介護等のサービスをいつでも安心して利用できる「地域包括ケアシステム」構築の必要性が高まっています。市では「地域完結型」地域包括ケアシステムの構築を目指しており、全国的な活動を行い、広い知見を持つ同社の知見を求め協定を結んだとのことです。
具体的な協定の内容は「地域包括ケアの充実に対する支援」「地域医療に従事する医療・介護従事者等への情報提供の支援」「市民向けの各種健康教育への支援」。全国の多職種連携や医療政策・制度等に関する先進事例の情報提供、医療・介護従事者への勉強会の実施支援、市民向けセミナーの運営支援などで、地域包括ケアシステムの仕組みづくりの支援になるそうです。特定の疾患、例えば糖尿病の重症予防などへも協力して進めて行きます。


医薬品業界の構造変化


敬老の日にヤクルトレディーが一人暮らしの高齢者を訪問し花を配る活動を紹介しましたが、製薬会社は今後積極的に地域包括ケアの活動に協力していくと思われます。地域包括ケアは高齢者介護だけではありませんが、大きな局面としての高齢社会への対応が背景環境としてあります。
その一方で、医薬品の販売に関わる構造的な変化も同時に起こっています。これまでは主として開業医をターゲットとした高血圧でのARBや糖尿病薬などが新薬としてあったため、製薬企業が全国津々浦々の医療機関を巡る活動が行われてきました。今は国政として医療費の抑制が必要でジェネリック医薬品への切り替えが行われています。ジェネリック薬への切り替え当初には多少の混乱もありましたが、これまで製薬会社に問い合わせれば済んでいた情報収集は医療機関が独自で行うスタイルへと変遷して行きました。広い領域をカバーする抗体医薬品は登場した時点でどのように業界構造が変化していくかは分かりませんが、現状は高度に専門化した医薬品に高い薬価がつくという状況になっています。自然に安全面のコントロールを行える人員や設備を持つ医療施設は限られてきます。勢い製薬会社に求められる人材はコミュニケーション型から専門分野特化型へと変化しています。


病院から在宅へ。期待される製薬会社の役割


在宅治療が医療の中心に移っていくと受ける医療も変わってきます。 衛生面が整っているのであれば、機材や薬などは病院と同じで病院のベットを自宅に持っていくのと環境は変わりません。 しかし、在宅医療では在宅元の病院の医師・スタッフ、在宅訪問の医師、看護師、薬剤師、ケアマネージャー、ヘルパー、地域包括センターの職員など人の関わり方、スタッフ体制が異なります。地域連携クリティカルパスの普及・推進に関する研究報告(平成22年3月、JPHA 一般財団法人 日本公衆衛生協会)にもあるように地域ごとに運営方法に特色が出てきます。
現在問題になっているのが在宅で関わりのあるケアマネージャーやヘルパーさんの医療知識の充実です。
「介護支援専門員」が正式名称ですが一般にはケアマネージャーさん(ケアマネ)と言われます。介護報酬などにも関わっている業界団体としては 一般社団法人 日本介護支援専門員協会があります。ケアマネの多くのキャリアパスとしては介護福祉からのルートと看護師を経由している場合があります。多くの目が患者さんに行くことはいいことだと私は思います。患者さんのケアプランや介護する立場で日常接する中で、治療に関わるということでなく、患者さんの異変に気がついたり、医療側への情報提供などを行ったりすることができていけばいいのだと思います。そういった意味では危機管理としての疾患周りの知識や日頃の感染症について勉強会などもあってよいと思います。ただ、全員が医療従事者の資格を持っているわけではないので内容に関しては注意が必要です。介護やヘルパーの団体への会報誌などから啓発を始めるというのもいいかもしれません。


衛生環境に取り組む企業など


切り口としては、衛星関連に取り組む企業からのアプローチと病気の早期発見に繋げるアプローチがあります。衛生関連に取り組んでいる企業として2社の動向についてご紹介します。

2018年9月13日のプレスリリースによるとキョーリン製薬吉田製薬はノンアルコール手指消毒剤の事業化を進めることになったようです。キョーリン製薬は、医療用医薬品として呼吸器科・耳鼻科・ 泌尿器科を特定領域として専門化を目指します。その一方で、2011年より環境衛生事業にも参入しています。吉田製薬は、日本薬局方医薬品各種製剤・カマ(酸化マグネシウム)と呼ばれる下剤や殺菌消毒剤などの製品があります。 今回のリリースを見るとアルコール過敏体質やアルコール製剤の高頻度使用による手荒れ等により既存の手指消毒剤 の継続的な使用が困難な医療従事者が存在し、こうしたケースにも対応できる製品を作っているようです。

オリックス・ファシリティーズはマンション管理で有名な大京のグループ会社です。 この会社ではビルメンテナンスのノウハウを活かして、医療関連施設の衛生面の管理なども行っているようです。介護施設でのノウハウなど在宅介護向けに情報提供をすることもいいと思いました。

認知症などの早期発見に対するアプローチは疾患啓発や市民公開講座のような形で行われることが多いです。もしくは医師への薬剤情報の提供と共に医療従事者への情報提供を行うくらいしかしていないと思います。おそらく直接的な売り上げの数字として表れないのと、情報提供のあり方としてその後の責任の所在がはっきりしなくなるためだと思います。