2020年6月6日の情報に基づき記事を作成しています。
内容については、最新の情報をご確認上ご判断ください。
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photo by NIAID
新型コロナウイルスに対する医薬品の適応拡大
アビガンの臨床試験について、医療統計と医療マーケティングの立場から考察してみたいと思います。今、新型コロナウイルスに対する医薬品として注目されているものは、適応拡大であり、既存治療の中で使われてきたものです。適応拡大とは、他の疾患での治療に使われていた薬を別の疾患に使うことをいいます。
5月7日にレムでシビルが特例承認されるまで、新型コロナウイルスに有効な薬がない状態でした。 ベクルリー(レムデシビル:Remdesivir)はエボラウイルス感染症に対する治療薬として開発された薬剤です。アビガン(ファビピラビル:favilavir)も抗インフルエンザ薬として開発された薬剤です。
未知の副作用が起こる可能性は否定できません。ただし、適応拡大の利点は、ある程度、安全性が似たものになることです。例えば、全く警戒していないところで催奇形性が起こるのではなく、アビガンでは既に催奇形性が知られていることがあります。 (例えば、オブジーボなどの抗癌剤でも、悪性黒色腫から始まり現在9種類のガンに使用されています。腫瘍という共通の土台の上で、経験値が活かせる可能性があります。)
新型コロナウイルスの重症度と治療の選択肢
新型コロナウイルスの治療では、呼吸器を主たる目安として重症度が分類されています。厳密ではないかもしれませんが、ウイルスの増殖による臓器への負担が体調を悪化させる軽症から中等症とサイトカインストームにより免疫が暴走による重症に分けられます。
軽症から中等症の治療を考えるときに、新型コロナウイルスの増殖抑制があります。 レムデシビルもアビガンも体内でRNAの元となる物質(リボ核酸)に似たものとなります。新型コロナウイルスはRNAウイルスでウイルスが増えるためには、RNAをコピーする過程が必要になります。このコピーの際に、これらの物質が材料(リボ核酸)として誤って取り込まれ、新型コロナウイルスのRNAが伸びるのをストップさせます。その結果、増殖を抑止します。これが、レムデシビルとアビガンの作用の仕方です。
武漢ウイルス研究所が新型コロナウイルスに対する培養細胞(Vero E6:アフリカミドリザル腎由来)の実験で効果を検討しています。
- 第1回国際感染症緊急事態への国際貢献に係る専門委員会
- 資料3-3ファビピラビルのCOVID-19肺炎患者への使用について
- Remdesivir and chloroquine effectively inhibit the recently emerged novel coronavirus (2019-nCoV) in vitro (Cell Research)
違いはベクルリー(レムデシビル)は注射薬ですが、アビガン(ファビピラビル)は飲み薬(経口)です。ベクルリー(レムデシビル)は中等症から重症患者を対象としています。おそらくこの投与経路の違いがレムデシビルとアビガンの開発戦略の違いを生み出しているのだと思います。
アビガンの検証的な臨床試験
原則として、医薬品の有効性は、臨床試験により、統計的な有意差が検証されることが必要です。観察研究は、薬の真の効きや安全性を担保すると言うよりも、医薬品に対する新たな知見を付与することが、その第一義的役割です。観察研究における症例の集積により、医薬品の効果の検証ができるものではありません。
アビガンに関しては、様々な臨床試験が動いています。今回着目するのは、試験実施者が富士フイルム富山化学株式会社の「非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者を対象としたファビピラビルの有効性及び安全性の検討−アダプティブ、単盲検、ランダム化、多施設共同比較試験-(非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者を対象としたファビピラビルの臨床第3相試験)」です。 医薬品としての担保と言う意味では、「ファビピラビルの臨床第3相試験」が適切だと思います。
- 臨床試験情報:ファビピラビル:JapicCTI-205238(富士フイルム富山化学株式会社)
- 臨床試験情報:非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者を対象としたファビピラビルの有効性及び安全性の検討−アダプティブ,単盲検,ランダム化,多施設共同比較試験−(一般財団法人日本医薬情報センター)
アビガンの臨床第3相試験の対象者は非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者
試験概要を見ると対象者は非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者です。 医療マーケティングの視点からこのデザインを眺めると、ファーストライン(第一選択薬)を狙う戦略に見えます。治療を大きく軽症、中等症、重症に分けるのであれば、治療初期に使われる方が、患者数(パイ)が大きくなります。
新型コロナウイルスの話ではないですが、例えば、抗癌剤での薬剤選択を見てみます。抗癌剤では、作用の仕組みが同じような薬剤が複数選択できるような状況では、どの薬を使うか、どの順番に使うかが問題になります。最初に使われる薬の方が当然ながら患者数(パイ)が大きく、製薬企業も第一選択薬として使われることを望みます。ただ、医薬品の開発の観点から見ると、既存治療のあるものは、医薬品の誕生とともに第一選択薬になることはあまりありません。最初は少数例でそして徐々に臨床試験や使用実績を積み重ねて、選択の順位(ライン)を上げていく、薬を育てていくことが行われます。
まずは治療薬として採用され、他の可能性のある薬が出てきたときには、併用を順次試していく。レムデシビルでは、この戦略に沿っているように思います。
話は戻って、もし、今後アビガンが承認されることがあれば、治療ではレムデシビルより前に使われることになります。しかも軽症例で使われることになります。既存の治療がないので、第一選択薬を狙うと言うのは、戦略としてあり得るのかもしれません。ここから後は経済とか国家間の取引の話になるのかも知れません。ただ、飲み薬(経口)というのもあるのかもしれませんが、負うべきリスクも大きくなるように思います。
予定試験期間が3月31日~6月30日までなので、解析も合わせて、その後どのような結果になるのか興味のあるところです。今一度、有事だからエビデンスが不十分でも良いとなれば、ウイルスと闘う医療従事者の武器が何なのか分からなくなってしまいます。理論的に治療ができる、きちんとしたエビデンスが欲しいというのが率直な感想になります。また試験の途中はバイアスがかからないように、慎重に見守っていく必要があると思います。
その他、新型コロナウイルスの治療薬として候補に挙がっている医薬品は下記のものがあります。