今後も広まっていくプレシジョン メディシン
一定のサブグループごとに患者に適した治療を提供する。これが、精密医療(プレシジョン メディシン;Precision Medicine)です。がんなどの治療に今後期待されています。
これまで薬は「平均的な患者」に対して使用することが前提となっていました。しかし、「プレシジョン メディシン」では、創薬から遺伝子情報、生活環境やライフスタイルにおける個々人の違いを考慮しています。
疾患に関わるタンパクを直接抑えることを目的にしている分子標的薬と相性のいい新しい考え方になります。背景としては、次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer、NGS)に夜遺伝子、DNAの解析の質が上がったことも要因にあります。言ってみれば、今まで、個別化医療、ゲノム医療などと言われていたものの延長線上の概念です。
このプレシジョン メディシンは、2015年前大統領のオバマさんの一般教書演説で「Precision Medicine initiative」として提唱されました。その後、トランプ大統領に変わっても、2017年の包括的予算として、1億2,000万ドル増額されています。このように、国家規模で見ても、重要な流れになっていることが分かります。
プレシジョン メディシンと統計との関わりをご紹介します。
プレシジョン メディシンに合わせた統計手法
新しい考え方が出てくれば、それに合わせて、創薬などの手法も新しくなっていきます。プレシジョン メディシンの登場に合わせ、統計にもマスタープロトコルという考え方ができてきました。マスタープロトコルとは、複数の仮説を評価することを目的に作成された包括的な試験方法のことです。高度な遺伝子解析装置などの共通のプラットフォームがあることが前提で、分子マーカーによりサブグループを作って解析していくことが主たる方法です。分子マーカーごとの集団(サブグループ)なので、「疾患で絞る」のか、「治療薬で絞る」のか、マスタープロトコルの試験にも種類があります。
疾患に複数の分子マーカーがありどの分子マーカーが有効かを見ていくような単一的な治療は、バスケット試験と言われます。逆に、例えばがんで、臓器を問わず共通の分子マーカーがあるものに対して複数の治療を試みる場合、アンブレラ試験と言われます。これらを同時に考える試験は、プラットフォーム試験と言われます。
バスケット試験として有名なものに、いずれもがんを対象としたものですが、BRAF400をターゲットにしたVemurafenibの試験や、NCI-Match、I-SPY2試験などがあります。第3相の前の探索試験と合わせて使用されています。
統計的な手法の特徴としては、2点あります。
まず、分子マーカーを主体とした部分集団のサンプルサイズが数〜数十ほどしか得られないため、これらの補完を統計的に行うことができます。希少疾患などへの応用が考えれらます。
また、有効なサブグループに患者を割り付ける目的で、サブグループへの割付を動的にすることもできます。適応デザイン(アダプティブ・デザイン)と呼ばれますが、定義としては「臨床試験の継続中にその中で蓄積されているデータに基づいて、臨床試験の妥当性やインテグリティを損なうことなく、試験の特徴の変更法を決定する臨床試験デザイン」になります。
これらの階層モデルとしての統計的な補完は、有効性の理解や意思決定の一助であり、サブグループ解析の一部なので、手法のみに基づく考察には限界があるようですが、これまで薬の効果を判定するのに多くのサンプル数を必要としていた試験をより少なくできるように設計されています。
統計的な観点から「プレシジョン メディシン」を解説しましたが、遺伝子解析技術の進歩とビッグデータなどの解析で培われた統計的手法の応用により、まさに「プレシジョン メディシン」は発展していると言えます。
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