2018/04/22

医薬品のプロモーションで疫学データを入れたいと言われたら

概要

医薬品の資材で冒頭に「どういうデータがあるか分からないが疫学データを調べて載せてくれ」と言われることがあります。 医療マーケティングの分野において「疫学」という言葉が、マジックワードというか、ある種思考停止ワードであるから です。 実際、依頼者がデータの 収集方法を理解していなかったり、どのような 疫学研究を言っているのかが曖昧であることが多くあります。 これら疫学データと言われた際の問題点と疫学 研究の分類と思わずやりたくなる 誤った資材の作成について述べます。 最後に、当面の打開策として、記述疫学に分類される厚生労働省のデータを活用する方法をお示しします。

薬剤の販促に使いたい疫学情報がない

医薬品の販売促進 活動資材に疫学的な情報が必要になることがあります。 医師との話の導入で、「疫学では何割くらいの患者がいます」と言いたいのだと思います。 疫学的なデータがあれば、患者イメージを数字 (割合)で表現できるのも理由にあります。 競合薬との 差別化できる 医薬品としての特性を見極められいないという現状もあるかもしれません。 このような医薬品のプロモーションに用いたい疫学データは、あまり世の中に 存在しません。 理由を考えてみると3つほど挙げられます。
  • バイオマーカーなどを持つ医薬品 では顕著 ですが、 個別化医療と言わないまでも、医薬品の効き目が患者さんの個々の状態に合わせた形になってきた
  • 臨床試験を通じてバイオマーカーが見つかることがあるため、そもそも疫学試験が行われないない
  • 医薬品の申請に疫学データが不要のため、製薬メーカーとして取り組んでない。 
そういった訳で、導入として疫学データが欲しいと言われて、色々探しても出てこないということがほとんどです。

どのような疫学データが求められるのか

そもそも疫学とは 何なのか。広く疫学と言っても下記のような 種類があります。 どの辺りに落としどころがあるかを見ていくことにします。 希少疾患でもない限り、症例報告はプロモーション資材になり得ません。 ランダム化比較試験 (RCT)であれば、臨床試験なのでこちらも疫学というよりは試験結果になります。
そうすると、記述疫学から前向きコホート研究辺りまでが疫学として述べられる範囲になります。 その一方で、大体、疫学が欲しいといういう方は、「疾患のサブタイプまで分類された患者割合はどれくらいいます」と言いたいことがあります。 理想としては、前向きコホート研究辺りで、バイオマーカーや疾患のサブタイプまで分類した発症の傾向が欲しいのだと思います。 健康診断やアンケートなど以外で大規模な疫学調査を 侵襲的に行うことの困難さを考えれば、このようなものがあまり世の中に存在しないのは想像に難くありません。
  • 症例報告
    薬が効いた/効かなかったということを報告する
    多くは1例。希少疾患などの稀な 状況に 対して有用な情報を提供することが多い
  • 記述疫学
    原因の 有無を問わず、疾病頻度を明らかにする
    例としては、死亡や人口動態などの政府統計 
  • 横断研究
    時間経過を含まない、いわゆるアンケート調査
    因果関係は問わない
  • 後ろ向きコホート研究(症例対照研究)
    以前に病気や障害の元となる原因となりそうなものがあったかを調べる
    後から原因を遡るので単純な割合は使用ができないため、オッズ比を用いる
  • 前向きコホート研究
    疾病の発生状況を原因となりそうなもので比較、追跡調査(follow‒up study)を行う
    時間の前後関係などが きちんと評価できるが、費用もかかる
  • ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)
    薬の効き以外に効果に影響を与えそうな 要因を排除できる試験
    医薬品の開発、治験などではよく用いられる

試験背景を疫学データとして使おうとする危うさ

それでも、 やはり疫学的な話の導入が必要だと、どこからか無理強いされたとします。 そうすると、疫学データの調査でもPubmedなどのデータベースが使われますが、その言った中から、疫学っぽいデータを引っ張って来ようとします。 具体的には、試験背景を疫学データに見せかけて使おうとします。 大概、臨床試験の試験背景となるものなので、疫学的な目的とは異なります。

疫学研究と治験、臨床研究のトライアングル

医薬品の上市 過程を考えると、 製薬企業の行う医薬品申請のための「治験」の背景として、「疫学研究」があります。 また、医薬品も世に出たらそれで終わりということではなく、その後の(治験以外の) 臨床研究もあります。 臨床研究うから得られた知見を再度、疫学研究や治験に 組み入れる ことで 病気の治療が進んでいくことになります。 本来であれば、治験だけでなく、その前段も製薬企業が資金を提供してデータを収集すべきこととも思います。 疫学も治験を含む臨床研究も人を対象として行われる医学研究 なので、きちんとした倫理指針に 沿って行われる必要があります。 ただ、 現実的には、医薬品の開発成功率を考えると治験の前段に疫学研究を入れるのは、難しいのかもしれません。
  • 臨床試験
    人を対象として行なわれる医学研究
    薬剤・治療法・予防法などの安全性と有効性を評価することを目的とした研究
  • 治験
    臨床試験のうち、新しい薬や医療機器の製造販売の承認を国に得るために行なわれる試験
  • 疫学研究
    疾病の成因を探り、疾病の予防法や治療法の有効性を評価することを目的とした研究



疫学研究の例

疫学研究として、広く知られているものを挙げておきます。 これ以外にもありますが、疫学データと言われた時のイメージがつかめると思います。

それでも疫学的な情報が知りたい方に

必要とされる疫学データが検索しても出てこない場合には、記述疫学として厚生労働省のデータを用いる手段があります。 具体的には、平成26年のデータを元に探し方を下記に記載しました。 出てくるのは、 傷病分類の患者数(千人単位)までです。
平成26年 患者調査(傷病分類編) より「平成26年患者調査(傷病分類編)の印刷用PDFファイルのダウンロードができます 」をクリックしてください。
ファイル 内で調べたい疾病を検索する と該当する疾病がどの分類に属するか分かります。

大・・傷病大分類
中・・傷病中分類
小・・傷病小分類
基・・傷病基本分類

次に、政府統計の総合窓口で検索をします。 統計データをファイルから探すを選択します。 検索条件として、「厚生労働省」、「患者調査」、「 年度(2014年など)」と上記で調べた疾病分類で検索をかけます。そうすると 「95総患者数,性・年齢階級 × 傷病中分類別」などと検索の 結果が出ますので、CSVファイルをダウンロードします。
ファイル内で該当する疾患を検索すると千人単位でどれくらいの 患者数なのかが分かります。

最後に

「 疫学でなんかいいデータ探しといて」という曖昧な依頼に振り回されて、ないデータを探せと言われることもあるかもしれませんので、 書き留めておきます。
どなたかのお役に立てば幸いです。

(関連情報)
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